「行動経済学的知見に基づくカスタマー・セントリシティで、顧客の長期的満足度を企業の成長につなげていく」 新執行役員・相良奈美香就任インタビュー
2024年4月1日、株式会社GA technologies (GAテクノロジーズ)の執行役員(Chief Behavioral Officer)に、相良奈美香が就任いたしました。
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今回の記事では、相良の経歴や就任の背景、そして今後の目的・意気込みについてインタビュー形式でお届けします。
Profile
「人の非合理性」に焦点を当てる行動経済学のユニークさ
ー オレゴン大学では心理学を専攻されていました。「行動経済学」との出会いについて教えてください。
当時はまだ「行動経済学」という言葉があまり広がっておらず、私の専門は心理学の中でも「意思決定心理学」というもので、それがいわゆる今の行動経済学と言われるものでした。大学2、3年の頃からずっと、「意思決定心理学」一筋でやってきてましたね。修士課程も心理学を専攻していましたが、博士課程は、ビジネスクラスのマーケティング学部で、「意思決定心理学」を研究していました。
博士課程で、心理学からビジネスクラスに移ったのにはいくつかの理由がありますが、その一つは、それまでの基礎的・学術的な研究だけでは物足りなさを感じ、もう少し実社会、実際のビジネスの現場に貢献できるような研究をしたいという思いが大きかったことです。心理学の修士課程2年目からビジネススクールの博士を両立し、両方とも2009年の12月に修了しました。
ー「行動経済学」のどのような部分に面白さを感じたのでしょう?
人は大小さまざまなテーマで、一日に3万5千件もの意思決定をしていると言われています。すべて自分で考え、決断をしていると思いがちなんですが、実はそのときの状況や感情によって意思決定「させられている」ことが多いんです。そこを理解すると、一見非合理的に見える行動にも理由があり、なぜそうなるかが理解できる。「あるべき姿」や理想像ではなく、人のありのままの行動に着目し、理解していくということが非常に面白くて、気づいたら修士や博士課程まで進んでいました。
ー そこから、2013年ご自身でコンサルティング会社を設立されました
ポスドク後は、リタイアメント資産の管理に関する研究・コンサルタントとしてキャリアをスタートさせました。その一方でより多様なクライアントの方とお仕事をしたいという思いで、自分でコンサルティング会社を始めました。当時は徐々に行動経済学が注目を集めていた頃だったのですが、各企業も、社の事業にどのように行動経済学的視点を取り入れたケーパビリティを作っていくかということについては手探りの状態でした。
長期資産形成への思い
ー 以来現在まで、14ヶ国、多種多様な業界や事業、フェーズにある企業のコンサルティングをされてきました。特に印象に残っているケースなどはありますか?
私自身は、これまでのキャリアの中で消費財や自動車、製薬、ヘルスケアなどさまざまな業界のコンサルをしてきましたが、金融に関わることが多く、特に退職後や老後の資産管理についてのコンサルタント歴が長いんです。アメリカは日本のような公的年金制度が不十分で、大企業に勤めているホワイトカラーや、企業年金や個人年金を利用している人以外は、制度の恩恵を受けることができません。それが大きな社会的問題となっており、そうした社会的課題に対して行動経済学を使ってどうアプローチしていくかということを研究・設計してきました。
たとえ老後資金が貯められたとしても、それをどう使っていくかということもまた難しい問題です。リタイア後にも生活を切り詰め、老後資金の大半を使わずに亡くなってしまう人も多く、それ自体は悪いことではありませんが、せっかく貯めたその資産で、より良い豊かな暮らしをするためにどのように使うかということについてもまた、大きな課題があると感じました。
やはり資産形成というのは、それぞれの人生における幸福度に直結する非常に重要なテーマだと思っています。しかし人は将来のことよりも、直近の「今」にお金をかけてしまいがちです。そういう中、どうすればその人の意志を尊重しつつ、よりよい資産形成をしてもらえるかということは、自分にとっても長年取り組んできた大きなテーマです。
強く印象に残った、GAのスピード感と実行力
ー GA technologies グループとの出会いについて教えてください。
私の著書(『行動経済学が最強の学問である』)を読んだというGAの一社員の方からメールをいただいたことがきっかけです。「当社でも行動経済学は必要だと考えているので、一度お話しさせてください」というメールをいただきました。まずはその方とzoomで話をしました。
私はこれまでの経験から、「トップに強い意志がなければ会社が変わることは難しい」ということを痛感していましたので、そのミーティングでも「御社の社長はどういう方ですか」とお尋ねしました。「非常にイノベイティブな人で、パッションがあります」とおっしゃったので、「まずは社長に直接訴えかけてください」とお返事したら、その数日後に、代表の樋口さんとその社員の方と3人でミーティングをすることになりました。そしてそのミーティングの場で、GAのコンサルティングをお引き受けすることになったんです。
そのときはとにかく意思決定のスピードと、行動力に驚きました。アメリカでも、これほどのスピード感のある会社にはなかなか出会えませんね。会社の規模が大きければ大きいほど、実際の行動に移すまでには時間を要しますが、GAは一定の規模の会社にもかかわらず、実行力があり、社員と役員との関係性もフラットで、非常にユニークだと感じました。
ー コンサルという立場からのサポートではなく、当社のメンバーとして参画を決意されたのはなぜですか?
先ほども述べたように、私自身に金融、特に長期資産形成への思いが強かったことが理由の一つです。長期的資産形成の中でも、投資というのは非常に大事なテーマだと思っています。アメリカでは不動産投資というのは当たり前に選択肢に上がりますが、日本はまだそこまで至っていない現状があり、そこを変えていきたいという思いがあります。
もちろん半年ほどコンサルティングをする中で、社員の方の優秀さと実現する力を強く感じたこと、樋口さんや大さんの「当社を世界的企業にしていく」というパッションに対し、米国でのキャリアが長い自分であれば何か貢献できることがあるのではないかと考えたのも大きな理由の一つです。
カスタマー・セントリシティを徹底し、顧客の長期的満足度を会社の成長につなげていく
ー 今後執行役員として、具体的にどのようなことに取り組んでいかれるか教えてください
これまでコンサルをしてきたすべての会社が課題としていることが一つあります。それは、顧客の意思決定プロセスに関する認識です。特に、金融や不動産は高額なため、つい「顧客はできる限りの情報を収集し、その情報に基づいて最大限合理的な決断をしている」と思いがちです。行動経済学では「システム2」、つまり熟慮的で合理的思考と言われるものです。
けれど実際は、高額な不動産投資であろうと、朝食に食べるヨーグルトであろうと、人というのは実は直感的で自動的な思考、つまり「システム1」やエモーションで意思決定をしていることが多いのです。ですから企業側には、そうした消費行動に合わせたリサーチなりマーケティングが必要になってきます。まずはそんな風に、企業がイメージしている顧客と、実際の顧客との間のギャップを埋めていきたいと思っています。
その上で、「カスタマー・セントリシティ」という概念を社内で浸透させたいと考えています。「カスタマー・セントリシティ」は10年ほど前からアメリカなどを中心に広く知られてきた考えで、「お客様の長期的な満足度が、企業の長期的な成長につながる」という概念です。
例えば世界的企業であるAmazonは、カスタマー・セントリシティを徹底しています。Amazonのリターンポリシーでは、インターネットで購入して、実物も見て気に入らないなと思ったら、フリーで返品ができます。アメリカのAmazonは、例えば届いた靴が気に入らなかった場合、アプリを操作し、靴をそのまま家の近くにある窓口に持っていけば、それでOKです。「どうやって梱包しよう」「送り状がない」といった手間はありません。なぜAmazonにとっては利益が下がるようなフリーリターンをあえて受け付けているかというと、それがカスタマーの満足度に直結しているからです。
GAでも、まずはより実態に即した顧客の心理を理解し、特に不動産領域における長期資産形成において、よりポジティブな顧客体験を提供し、顧客の長期的満足度をあげられるような仕組みを積極的につくっていきたいと考えています。
※本記事は作成時点での情報を参考にしております。最新の情報と異なる場合がございますので、ご了承ください。